日機装 深紫外線LED 開発の歴史-1
ノーベル賞受賞者と歩んだ研究開発の道――「深紫外線LED」開発ストーリー(1)
この記事では、私たち日機装が「深紫外線LED」の開発に取り組んだ歴史をご紹介します。
深紫外線LED開発のきっかけ
当社はポンプ事業で創業し、そこから派生する形で産業用機器や医療機器、航空機部品などを手がけてきました。私たちはこれらに続く次のビジネスとして、産学連携のもと基礎研究からしっかり携わった製品を生み出したいと考え、「深紫外線LED」に着目しました。当社のメディカル部門の主力は、血液透析事業です。透析は血液を体外に取り出して有害物質を取り除き、再び体内に戻す治療法です。深紫外線LEDをこの治療における清浄度保持のために活用すること、さらには水の除菌などにも応用できることに、大きな可能性を感じたことがきっかけになりました。
天野先生との出会い
開発は2006年、日機装が名城大学の赤﨑勇先生、天野浩先生をお訪ねし、共同研究を申し出たことから始まります。ご存じのとおり、お二人は青色LEDの開発によって『ノーベル物理学賞』を受賞された日本を代表する研究者です。2014年の受賞よりも前に、青色LEDの実用化に成功されていたお二人の次の挑戦が、深紫外線領域であったことがご縁になりました。
天野先生は当初、深紫外線の発光に水銀ランプをお使いでしたが、この水銀ランプはもろく壊れやすいという特徴があり、寿命も長くありません。破損した場合には水銀が拡散するおそれがあり、環境汚染の原因になりかねません。そのため、廃棄も慎重にならざるをえないなど、多くの問題がありました。これらを理由に、天野先生は水銀ランプをLEDに代え、研究を進めてこられました。
深紫外線LEDの実用化に向けた挑戦がスタート
さて、このLEDですが、「Light Emitting Diode」の略で、発光する半導体素子(電子部品)を意味します。すでに多くの照明が蛍光灯や白熱電球からLEDに置き代わっており、私たちの暮らしにも身近な存在になっています。LEDは、明るさが蛍光灯のおよそ2倍、白熱電球のおよそ8倍といわれるにもかかわらず、消費電力は白熱電球の10分の1と非常に低コストです。寿命も4万時間と蛍光灯の4倍あり、取り替えの手間がかかりません。このほかにも、さまざまな色の光を出せる、CO2排出量が少なく環境にやさしい、温度に左右されず明るさが安定している、ON/OFFの切り替えに強い、点灯直後から最大の明るさが得られる――など、たくさんのメリットがあります。
余談ですが、水銀ランプは2013年、ジュネーブで締結された「水銀に関する水俣条約」に基づき、2020年末をもって、一般照明用の水銀ランプの製造・輸出入ともに国際的に禁止されています。SDGsの考えからも、こうした規制が入ったことは当然の流れといえるでしょう。
天野先生は、このように使い勝手のよいLEDで深紫外線を発光させる技術を確立されていましたが、「この技術を社会実装させてこそ意義がある」とし、その先を見据えていました。こうした先生の思いに、私たち日機装の事業構想が合致したことが、実用化に向けたスタートになりました。